別れなき不倫恋愛
恋美から、こんなメールが飛んできた。
「大切な話があります」
この一言だけ。が、それがやけに重くインパクトがあった。
仕事中だったため即レスはできなかったが、その日の仕事を終えると彼女と会うことにした。すると、今日は会社を休んだのでこっちまで会いに来れると言う。
恋美のマンションからは地下鉄ですぐにこれるだろう喫茶店でおちあうことにした。
ところが、待ち合わせ時間が過ぎても彼女は現れない。時間にはシビアな彼女の質を鑑みれば、道中でなにかアクシデントでも? と、心配になった。
結局、遅れながら現れた恋実なのだが、遅れた理由はただ単に重い足取りのおかげで歩く速度が極端に遅かっただけのようだ。
つまり、そんなに足取りが重くなるほど、大切な話が憂鬱な内容だったというわけ。
店に入れば暗い面持ちで腰掛ける恋実。
「どうしたの? いったい……」
「あのね、じつは転勤の内示があったの」
「! どこに転勤?」
「海外支店だって…」
「………」
思わず、沈黙してしまった私だったが、客観的に見るとこの内示は彼女の勤務先からは相当な期待値を寄せられた結果であることは察しがついた。
もともと有能な社員として勤務していた彼女。もっと女性社員の出世を! と叫ばれる近年の産業社会。有能な女性社員は経験値を高めて見聞を広めて、リターンしたときには男性社員の部下をもつ女性リーダーの誕生をと‥それなりの規模の企業であれば、そこを数字化して社会にPRするようにもなった最近の日本である。
なので、この件は普通なら大変喜ばしい内示に違いない。
が…、言い捨てるように暗い表情で転勤の件を打ち明けた恋実には、寂しさや不安や期待へのプレッシャーや実に様々な落ち着かない気持ちが浮かび上がっていた。
「いつからななの?」
「来期から‥でもさ…」
「うん、なに?」
「出世なんていらない。女だから。あたしなんかに期待して欲しくない! それに義男ちゃんと離れたくない。こんな不倫恋愛、遠距離恋愛で続くわけないじゃん!」
そう言われればたしかにそうかもしれない。不倫なんていつかは〝おわり〟を迎えるべき恋愛。不倫の終わりが、なにかのキッカケによって終わるものだとすれば、不倫相手の転勤とか物理的に会えない状況が不倫関係の終わりとなる可能性は格段に高いだろう。
むしろ不倫関係なんて、そうやって機会によって終わらせていくべき恋愛だとも言えそうだ。しかも、私には愛華やサトミといった別の愛人の存在があり、それを恋実が認めているとは言え、本心では私を独り占めしたい気持ちもあるだろうし、転勤によって自分だけがスーッと消えてゆこうとする事実が耐えられないのかもしれない。
「恋実…おれは今、おまえにどう言えばいいのかわからないんだよ、でもさ、きっと大丈夫な気がする。おれたちの関係はまだまだ終わらない。よ、そう思うんだ」
「どうして?」
「どうしてって…おまえは俺にとって大切な存在になってしまったし、正直、不倫相手だとは思っていない。妻も君も同じように愛しているんだ」
「ほんと……?」
うそではなく、これは私の本心だった。
もしかすると、妻も愛人の同じように愛しているとする表現は、究極の矛盾だと批判が飛んできそうなものだが、私にとって不倫とは不倫でなく恋愛なのだ。
ただ、私の恋愛のかたちが〝一般論〟として非倫理的だから不倫であると解釈されているに過ぎない。
別れることを決めて恋愛する者はいない。が、不倫とは別れがあるものとして行われるのが大勢だ。いつまでも永遠の愛を不倫に捧ぐなんて…たしかに私は分別のつかない男なのだろう。
「大切な話があります」
この一言だけ。が、それがやけに重くインパクトがあった。
仕事中だったため即レスはできなかったが、その日の仕事を終えると彼女と会うことにした。すると、今日は会社を休んだのでこっちまで会いに来れると言う。
恋美のマンションからは地下鉄ですぐにこれるだろう喫茶店でおちあうことにした。
ところが、待ち合わせ時間が過ぎても彼女は現れない。時間にはシビアな彼女の質を鑑みれば、道中でなにかアクシデントでも? と、心配になった。
結局、遅れながら現れた恋実なのだが、遅れた理由はただ単に重い足取りのおかげで歩く速度が極端に遅かっただけのようだ。
つまり、そんなに足取りが重くなるほど、大切な話が憂鬱な内容だったというわけ。
店に入れば暗い面持ちで腰掛ける恋実。
「どうしたの? いったい……」
「あのね、じつは転勤の内示があったの」
「! どこに転勤?」
「海外支店だって…」
「………」
思わず、沈黙してしまった私だったが、客観的に見るとこの内示は彼女の勤務先からは相当な期待値を寄せられた結果であることは察しがついた。
もともと有能な社員として勤務していた彼女。もっと女性社員の出世を! と叫ばれる近年の産業社会。有能な女性社員は経験値を高めて見聞を広めて、リターンしたときには男性社員の部下をもつ女性リーダーの誕生をと‥それなりの規模の企業であれば、そこを数字化して社会にPRするようにもなった最近の日本である。
なので、この件は普通なら大変喜ばしい内示に違いない。
が…、言い捨てるように暗い表情で転勤の件を打ち明けた恋実には、寂しさや不安や期待へのプレッシャーや実に様々な落ち着かない気持ちが浮かび上がっていた。
「いつからななの?」
「来期から‥でもさ…」
「うん、なに?」
「出世なんていらない。女だから。あたしなんかに期待して欲しくない! それに義男ちゃんと離れたくない。こんな不倫恋愛、遠距離恋愛で続くわけないじゃん!」
そう言われればたしかにそうかもしれない。不倫なんていつかは〝おわり〟を迎えるべき恋愛。不倫の終わりが、なにかのキッカケによって終わるものだとすれば、不倫相手の転勤とか物理的に会えない状況が不倫関係の終わりとなる可能性は格段に高いだろう。
むしろ不倫関係なんて、そうやって機会によって終わらせていくべき恋愛だとも言えそうだ。しかも、私には愛華やサトミといった別の愛人の存在があり、それを恋実が認めているとは言え、本心では私を独り占めしたい気持ちもあるだろうし、転勤によって自分だけがスーッと消えてゆこうとする事実が耐えられないのかもしれない。
「恋実…おれは今、おまえにどう言えばいいのかわからないんだよ、でもさ、きっと大丈夫な気がする。おれたちの関係はまだまだ終わらない。よ、そう思うんだ」
「どうして?」
「どうしてって…おまえは俺にとって大切な存在になってしまったし、正直、不倫相手だとは思っていない。妻も君も同じように愛しているんだ」
「ほんと……?」
うそではなく、これは私の本心だった。
もしかすると、妻も愛人の同じように愛しているとする表現は、究極の矛盾だと批判が飛んできそうなものだが、私にとって不倫とは不倫でなく恋愛なのだ。
ただ、私の恋愛のかたちが〝一般論〟として非倫理的だから不倫であると解釈されているに過ぎない。
別れることを決めて恋愛する者はいない。が、不倫とは別れがあるものとして行われるのが大勢だ。いつまでも永遠の愛を不倫に捧ぐなんて…たしかに私は分別のつかない男なのだろう。