別れたくない? それはまだ不倫がしたいだけ?
別れの予感が漂う不倫相手との関係。
その予感を打ち壊すがごとく、東京から札幌に飛んだ私。――札幌駅の改札を出てから、私達は南口にあるタクシーの待合所へ向かった。
勿論、電車を降りる時から彼女の手を握ったままだ。今日は外食もせず、真っ直ぐに愛華の自宅に行く予定だ。
タクシーに乗っている最中
「そう言えば、カバンとか持ってきてないの?」
「慌てて来たからさ…」
愛華は急遽、自宅前でタクシーを停車させると「買い物していこうよ」と言い、コンビニへ向かって歩き出した。
「何買うの?」
「歯ブラシや下着とか買わないとダメでしょ?まるで、家出人みたいだね」
そう言って、自分でカゴを持ちいろいろと品定めをしてくれた。
実は、愛華の家に行くのは、これが2回目だった。愛人と10年以上もの不倫関係を続けていながら2回しか行ったことが無いのです。そうは言っても、愛人なんてホテルで会うべき対象であって〝自宅〟だなんて地味なロケーションで会うべきものじゃない? と、思わなくもないのだが……
1回目は、引越しの手伝いをした時だった。この時は、翌日に急用があったため片付けが一段落すると早々に部屋を後にしたから、どんな部屋なのかも記憶にない。
そして2回目が今日だった。ようやく、マジマジと彼女の私生活が演じられている部屋の中を見渡した感がある。それは、愛華らしく落ち着いた感じの部屋だった。
部屋に入り、話をして無我夢中で愛した。それから、どの位の時間が経ったのだろうか?
私から、こんな言葉で切り出した。
「東京に出てこないか?部屋も用意するし、仕事も探しておくから、ね?」
「行きたいよ、義男ちゃんのそばにいられるのなら。私だって別れたくはない。でもね、本当にそれで全てが解決するのかなぁ?」
「きっと、何も解決しないと思う。答えが見えないと、やっぱり不安?」
「義男ちゃんが思う答えって何だと思う?」
「俺にとっては愛華の未来かな?」
「私の?何でそんなに私のことばかり言うの? ズルくない? まだ不倫がしたいだけなの? 自分も含めた未来は関係無いって言うの? バカじゃないの!アホじゃないの!」
「お前だってバカでアホで、救いようの無い女だろ? 待ってろ!って言った俺が先に結婚して約束破ったのに、それでも好きだって言って、この10年も俺と付き合ってさ…でも、そんな女でも俺には必要なんだって」
「うるさい!何でそんなこと言うの? 最後までトコトンけなせばいいのに何でそんなこと……別れられなくなちゃうよ」
やっぱりなぁ……
愛華は私を見透かした様に何でも言うけど、私もだてに10年も付き合っていない。愛華の気持ちは札幌に来る前から、いや、あの言葉を聞いてからわかっていた。だから、今回は札幌にやってきたのだ。
彼女の未来は私の未来だ。私の今は彼女に与えられた未来だ。しかし、彼女を失ったら私の今も未来だってすべてが過去になってしまう。
「いい女を手放したくない」そんな、不倫願望だけではないのだ。
もっと新鮮な愛人にのりかえてしまえばいいのでもない。不倫でもなんだっていい、この女と別れたくない。私には愛華という女が必要だった。もはや不倫ではなく愛だった。いつまでたっても青さの抜けない男は、愛人を愛人として扱うこともできずに、不倫と恋愛を混濁させてしまう困った男だった。