「結婚しても恋愛したい」NOT「結婚しても恋してる」
そもそも、結婚しても恋愛したいと思った経験がない。
理由は簡単、結婚はビジネスを成功させるための逆玉婚だったから。愛人である愛華との関係は結婚する前からも後になってもずっと続いていた。なので、私の場合は「結婚しても恋してる」がピンとくる気がする。
――出張を兼ねて2泊で札幌に飛びました。土曜の朝9時頃に新千歳空港に着くと、クライアント先で新規プロジェクトのプレゼンを好評のうちに終え、午後に自由になった私は、愛華に連絡して、とある公園で待ち合わせをした。
待ち合わせの時間まで40分ほどあったので、公園の貸しボートに乗ることにした。
池の中央には小さな島があり、その辺りでボートを止めて、どこから来るかわからない愛華を待つことにした。
時間より早め…走る姿の似合わない愛華が小走りにやってきたのだが、私の姿に気づかず、辺りを見渡して電話を掛け始めた。
「どこにいるの?まだ着いてないの?」
「いるってば…ボートに乗ってる」
「あっ!いたいた‥ちょっと待ってて」
どうやら愛華もボートに乗ろうとしている。
(あれ? ボート漕げるんだ?意外な一面。とにかく、艶やかさは絵になる人だがさわやかさはアンマッチな人だ)
……が、しかし。ボートはどんどん私の方ではなく真逆の方向へ突き進み、浅瀬になっているところであえなく座礁、操縦不能…。
見るに見かねた私は、愛華を救出するために全速力で近づいて行ったところで、こんなことを言われた。
「来ないで!絶対自分で脱出してやるー!」
持ち前の負けず嫌いの炎がメラメラと燃え始めた。でも、無理だった。船体の三分の一が浅瀬に乗り上げていたから。そして私が船尾に近づき、愛華のボートを引っ張り、何とか脱出成功。
「もー! 自分でできたのに!」
「無理だって、こんなの」
「もとはと言えば、義男ちゃんがボートに乗ってるから、こんなことになったんだよ。」
でた!お決まりの被害妄想で自分のミスを綺麗に相手に転嫁する女性。けれど、こんな状態の場合は、いつも私が「ゴメン」って謝らないと、収集がつかなくなることが多々あった。つまり私は、完全に彼女に惚れている。メンヘラのように機嫌を損ねる彼女の習性も、なんでもいいから自分を悪者にしてやると安心したように笑みをこぼす彼女の横顔も好きだ。理由無く、損得無く、好きだ。
「ごめんゴメン…今度からは黙って陸で待ってるから。本当にごめん!!」
「ホントに、心から謝ってる?」
「本当に、ホント」
「じゃぁ、いいよ。」
不倫恋愛なのに、まるで、昭和の学生カップルのように初々しい恋愛感情に溺れることができる。そのことが、私の純情に火をつけたとでも言うか…あるいは、男なんていくつになっても〝青い〟のか? ともかく、なんだか訳が分からないが、とりあえず彼女の機嫌が治ったみたいでひと安心。人は私たちを不倫関係と言うかもしれないが、当の二人にはとっては恋愛なのである。なぜなら、愛華は私の嫁のことを本気で気にしていないし、私も愛華に実質的な彼氏がいたとしても気にはしない。互いが互いしか見えていないから心はいつも通じ合っているのだ。
――その後「どこいく?」「買い物行く?」、などと2漕のボートをくっ付けて話したあげくに、近くのレストランに行くことになった。そうは言ってもファミレスだ。
「何でファミレスなの?もっとカッコイイとこ行こうよ」
「社長さんになると、こんなとこ来ないでしょ? たまには良いものよ、庶民の味っていうのも」
「庶民だよ、俺だって。ただ一緒に行く人がいないだけで」
数年振りに来たファミレスの味は、結構なつかしくって、昔、お金が無かったころ、よく愛華とご飯を食べに来た事を思い出した。その頃というのは、デリヘル嬢とお客との関係で会うわけだから、そこに金銭の授受が生じる。つまり、遊ぶ金がなければ愛華と会うことはできない。
ファミレスでの会話も〝青〟かった。きっと、周りのテーブルに座る人たちの印象では、私たちは恋人以上夫婦未満ぐらいの関係に見えたのではないだろうか? それぐらい、私たちには不倫関係のイヤらしさが漂っていないのだ。
「結婚しても恋愛したい」なんてフレーズを見聞きすることがある。
まさに、私たちのことではないか? ただし、不倫関係にある以上、「結婚しても恋愛してる」と言い換えるのが正解ではあるが。これを言うと、最低で最強の男の言い訳だろうが…結婚と恋愛に順番とか区切りとかは必要ないのでは? つまり、結婚すると恋愛してはいけない、そんなのタブーだ。と、一般論で斬ることの方が、逆タブーじゃない? と、ふと思うのだった。