出会いアプリに不倫 それはタブーではなく青い純愛だった
出会いのアプリで恋が始まり、ただし不倫。それって、軽薄でタブー視されるのが一般的かもしれませんが、私たちのようにこんな純で青く淡い「恋」だってあるんですよ。
会社が恵比寿にあった頃、二人目の不倫相手である恋美(れみ)と待ち合わせをしてランチを一緒に食べに行く機会があった。
ほんの少しの時間だが、その時の私にとっては、すごく楽しい時間だった。
そんな時、かねてからの懸案事項だった「誕生日プレゼント」について恋美に尋ねてみた。
「義男ちゃん、本当に私は何も要らないからね」
「そんなこと言われてもなぁ?」
正直、そんなこと言われれば、余計に勘ぐってしまう……。
「じゃ、プレゼントの変わりにひとつお願いがあるんだけど?」
「なんでも言ってよ」
「私の誕生日の日は、私だけのことを考えて欲しいの。仕事や趣味に奥さんのことを全て忘れて。あたしはどこにいても、義男ちゃんがその日は私の事だけ考えてるんだ!って思ったら仕事の時も寝る前でもすごく幸せな気分になれるからさ。でも…やっぱりムリだよね。だって、義男ちゃんは社長さんだし、今一番忙しい時期だし、私だけって、ムリだよね、結局不倫相手だもんね、だって出会いのアプリで知り合ったんだしね私たち…」
「恋美……」
恋美が話し始めた時は、幸せそうな表情を浮かべていたが、やがて自分を諭すかのように淋しい表情へと変わっていった。現実問題、今の私の状況ではムリかもしれない。
しかし、その言葉を恋美に対して発するのは、ある意味、別れを宣告するより残酷だと思い黙って口を閉ざした。
食事が終わり、短かった昼休みが終りを迎え店を出る。
別れ際に…
「今日はごちそうさま。義男ちゃん、あまり仕事ムリしないでね、バイバイ!」
「恋美も、仕事がんばれよ!」
いつも私は恋美の後姿を見えなくなるまで見送っている。恋美は決まって何度か振り返り
可愛い笑顔で何回も手を振ってくる。しかし今日の、その姿は何だか悲しそうに微笑んでいる様に見えた。
日は過ぎる――。この時期の東京は少し天気も不安定。「今日は雨が降りそう。でも…」
恋美の会社があるビルの近くには赤色の小さなカフェがある。
そこのオープンテラスに腰掛け昼休みに出てくるだろう彼女を待つことにした。
カフェラテを注文し目の前にある、ビルの回転扉を見つめていた。
1時間が過ぎた頃に、雲行きが怪しくなってきたが「雨は降らないだろう」と勝手に決めていた。しかし予想はハズレ、パラパラと雨が降ってきたので店内に非難した。
一番、ビルが見やすい場所に腰掛けて黙って待つことにした。多分その姿はストーカー?もしくは、張り込みの刑事?みたいだ。想像すると何となく自分でも可笑しくなり噴出しそうになったが、ここで大笑いしたら、今度はイカレタ男に本気で間違えられるだろう。
そんな妄想をして時間をつぶしていると、昼になり人の行き来が激しくなってきた。店を出て、真直ぐビルの回転扉へと向かい恋美の姿を探した。
扉の向こうに見えるエレベーターから人ごみに紛れ恋美がうつむき加減で歩いてくる。私はその姿を見つけ、「恋美!」と少々大げさに手を振って呼びかけた。
「どうしたの義男ちゃん?人に会ってるんじゃないの?」
「雨降ってるから中止。またいつでも会えるから。それよりごはん行こうよ!」
「うん!行く行く」
恋美を連れ、先程までいたカフェに行った。
実は、恋美を迎えに行く前に店に言い残してきたのだ。
「今、人を迎えに行くから席を2人分取っておいてもらえます?」
「いいですよ。じゃ、傘貸しましょうか? 外は雨が降ってるし」
「アリガトウ、じゃ、ヨロシク」
席に座り同じモノを注文し、彼女は午前中の出来事を話してくれた。
「義男ちゃんさぁ、今日ずっとココにいたでしょ?」
「なんで?」
「だって、傘をお店の人に返してたし、席に通された時に見たんだけど、義男ちゃんのスマホ、テーブルに置いてあったよ」
「いいじゃないの? 気にしない,気にしない」
恋美はこの後、少し考え込む表情をしていた。何故?と思いつつも、私はたわいも無い話を続けていた。
「ごめんね、今日、午後一で打ち合わせだから早めに戻らないと」
「分かった。恋美。……なんでもない、ガンバレよ」
「うん…」
本当は「仕事終わるまでココで待ってるから」と言おうとしたが、彼女のことだから、それが気になって仕事どころじゃないだろう。自分で勝手に待っているのだから、迷惑はかけられない。
彼女が会社に戻る時には、雨も止んでいたが、相変わらず空には厚い雲が居座っていた。
「プレゼントはいらない」と言った恋美に「何をあげられるんだろう?」
彼女を待つ殆どの時間をそのことについて考えていた。
私はプレゼントの代わりに2人の思い出が残る場所に連れ出した。今となっては、不倫とは言え青い純情が漂う場所だ。そこは恋実との不倫が始まった場所。
つまり、出会い系アプリを通じて二人が最初に出会った場所だった。
「ここ覚えてる?ここで俺はビールを頼んで恋美はアイスティーを頼んだ。それから、何で自分が出会い系アプリに書き込みしたかを話してくれたよね」
「あの時、卒業して自分が何になりたくて何を目指していたかが分からなくて、なかなか内定も決まらなかったし……」
「それで、半分ヤケになって既婚者との恋愛に走る…そんなこと言ってたね。悲壮感が漂うってのはこのことを言うんだと思ったよ」
「義男ちゃんだって、そんな感じだったよ。あの時、奥さんじゃない誰かを見ていたよね? だから『この人に私の時間をあげたい』って思ったの」
<あの頃の俺は、愛華に会えない気持ちを誰かに補ってもらいたかった。でもね、恋美に初めて会った時、この子ならそばにいてくれる様な気がしたし、いてあげたいって思った。多分、その頃の気持ちは今でも変わっていないだろう>
過去から現在に至る気持ちはどれほど進化してるのだろう?
もしかしたら、恋美だけが一人で私に対して愛情を膨らまし、私は何も変わらないで今にきてるのかな? そんなことはない。私だって彼女のことを愛している。既婚者がなにいってんだ? って批判されるかもしれないけれど「不倫相手を愛している」ことは事実で、妻を愛していることだって「事実」だ。これは自分でも説明のつけられない不思議な恋愛論なのだ。
「遠出でもするか」って、言ってはみたもののいざとなると「ドコ行こう?」と、なり
その日の夜に、どこに行くか不倫会議を開いた。
「海?山?それとも川?」
「なんか、忍者の合言葉みたい」
「恋美って旅行好きだから国内は行ってない場所なんてないんじゃない?」
「そうね、あっ、札幌に行きたい!」
「どうしてさ?」
「札幌は昔義男ちゃんの住んでた場所でしょ? 『あそこから全てが始まった』って前に言ってたよね? だから行きたいの」
「よし、明日は札幌に行こう! でも、俺1泊しかできないけどイイ?」
「十分だよ」
その夜は、明日行くことになった札幌のホテルや航空券を手配したり恋美が行きたい場所等を決めるためネットで2人楽しく探していた。
札幌に行く理由。
たしかに恋美に「今の自分はあの場所から始まった」そんなことを言った覚えはある。他方、恋美にとって札幌とは、どんな意味があるのだろう?
限られた時間でいろいろな場所に連れて行ってあげたいから、朝一番の飛行機で札幌へと向かった。2人とも前の晩は、明日行く場所や絶対に食べに行きたいトコや、もちろんアツく激しいエッチもしたり…そんな感じで、眠る時間なんてありませんでした。
札幌に到着すると恋美が…
「まずは、義男ちゃんが最初に住んだトコに行こ!」
札幌駅から地下鉄東豊線に乗り私の最初に住んだ家に向かった。
外からマンションを眺め…
「しばらくぶりで来たって感じ?」
「5、6年ぶりかな?」
「自炊してたの?」
「いや、毎日あのスーパーで弁当買ってた」
「じゃぁ、あそこでお弁当買おうよ」
私達は弁当を買って近くの公園で食べることにした。恋美は弁当を食べながら「うん、うん」と何度も頷いては私に笑顔を見せる。
「こんなんで満足?」
「義男ちゃんが毎日食べてたお弁当食べるなんてなんか不思議な感じでさ。だってね、義男ちゃんが札幌に転勤して毎日してた食事ってこれなんだ!って思うとさ嬉しくなるよ」
「帰るの、毎日夜中だったし、あの頃はお金もなかったし」
それから、札幌駅に戻り南北線で大通り公園に行った。
テレビ塔から4丁目方面に歩くと以前勤めていた会社のビルが見えてくる
「ここで毎日夜中まで頑張ってたんだ」
「頑張ってたかは、ちょっと疑問かな?」
恋美は会社のビルをテッペンまでゆっくりと眺めながら、また「うん、うん」と頷いていた。
「ビルの中に入れるの?」
「大丈夫じゃない?」
ビルに入ると以前居た時と変わらず同じ場所に観葉植物が置いてある。それを恋美に言うと、すかさず近くにより…
「これさわったことある?」
「何回かあると思うけど、なんで?」
「指紋残ってるかなぁ?」
ある訳がない……。
それからは思いつくまま以前行った場所へ行ってみた。その場所に行くと決まって恋美は
「うん、うん」と微笑みながら頷いていた。
最後はススキノに行き、食事をすることにした。「なんか、義男ちゃんが札幌で生活してたって感じがする一日だった。」
「だって本当にいたんだもん」
恋美は突然黙り、
「もっと早くその頃の義男ちゃんに会いたかったな。そうすれば…でも、それはないか!」
「恋美、その頃の俺に会ってたとしても今と同じ感情で付き合えたか?」
「わかってるよ、その当時の義男ちゃんには愛華さんしかいなかった、でしょ? 大丈夫、理解してるから」
その顔は確かに微笑んでいたがじっと見ていると泣いている様な気がした。