逆玉婚で出世しても私は妻には惚れていなかった

取引先の専務のお嬢様との見合いと結婚は、当時の私のステータスからして逆玉婚だと皆は風評した。そのとおりかもしれない、地位も名誉も財もない男が勤務する企業の利策のために〝お嬢様〟と結婚したのだから、他人が私をみて思うことは皆同じだ。


ともかく、意思なき婚活とでも言おうか……、さらに意思もなく無気力な逆玉婚とでも言おうか……、私は常務の紹介で取引会社の専務の娘とお見合いした後、順調な交際が始まった。

彼女は私には無い純粋さを持っていたが、出世のための結婚以外の何物でも無い交際である以上、依然として私の心の中は愛華だけに埋め尽くされていた。

交際が始まり7ヶ月が過ぎた頃、やがて私たちは結婚をした。同時に、結婚は逆玉婚として社内外に拡散された。この頃の私は、結婚=愛ではなくて、出世=結婚だと本気で思い込んでいたのだ。
結婚とは愛があるから成立する人生の約束だと思う。言い換えれば、愛がなければ結婚を成立させる〝理由〟が必要だ。

私にとって理由とは、出世だ。その理由の向こう側には、惚れた女との約束を果たす目的がある。そして逆玉婚で結婚した妻には惚れていない。それが事実だった。

この結婚は、自分の出世および、我社に膨大な利益とコネクションを提供してくれた。そうして常務は副社長に昇進し、私はプロジェクトリーダーに抜擢された。私の昇進は、社内でも「完全なる見返り昇進」と陰口を叩く者や、棚ボタを狙い近づいてくる者で大賑わいとなっていた。だが、この程度のご褒美では満足できなかったし、身も心もちっとも満たされやしない。

取引先の専務は私の義父となったが、義父の会社は代々、直系の長男あるいはその親族で成り立っていて、妻の祖父が会長兼社長として、未だ居座っている典型的な親族企業だ。

義父は専務としてナンバーツーの位置にいたが、会社の実権は全てと言っていい程、その手中に握っていた。

ある日、義父から「うちの会社に来い」と言われた事があった。最初は普通の社員として働き、3年以内で新規事業を成功のレールに乗せ、課長・部長そして役員になる……と言うシナリオだ。

しかし……である、「遠回りだ」私には時間が無い。そのオファーを受け取るということは、野望の実現まで少なくても5年、いや7年はかかる。

愛華への約束があった。
「30歳までに必ず社長になって幸せにする」
すでにタイムリミットは近づいている。同時に、約束は一つ破っている。そう、愛華を妻として迎え入れることが出来ない。

たとえ、大会社の社長になっても約束を破ったことには変わりはない。けれど、ひとつの約束を破ることで本当に必要な約束を生かす…そのような持論とも言い訳とも思える気概だけで毎日を生きていた。だから、たった一つでも約束を守らないと、どの様な形にせよ愛華との再会は不可能な気がしていた。

何かに追い立てられて生きる毎日は、人の決断力を磨く。自分にとって利益をもたらす者とそうでない者、敵か味方か? など……。惚れた女との約束のために成り上がろうとする男だなんて誰も思いもしなかっただろうが、とにかく私は猛烈に仕事をした。

とりつかれたように激しく働く私であったが、同時に精神状態はかなり不安定だったと記憶している。そんな精神状態が約1年続いた時、以前赴任していた上海の仕事仲間が本社に
打ち合わせでやってきた。彼らは私の心の変貌振りを瞬時で見抜き……
「頑張っていることは良い事ですが、一人ではつらすぎますよ」
「正直、疲れたよ、でも、とにかく時間がないんだ。」
「ずっと前から知っていました、アナタが何かにあせっていることは。中国の友人として、あなたの力になりたいです。」
「俺、会社を辞めて独立しようかと思ってるんだ。」
「もし、以前の怒ったり、笑ったり、時には涙する、愉快でもあり頼もしい義男さんに戻ってくれる保証があるなら、一緒に上海で事業を起こしましょう。きっと中国のあなたの友人達も応援してくれるはずです」

この3ヵ月後、私は中国の友人や会社の部下と共に会社を辞めた。結婚当初から会話の無かった妻に、突然「会社を辞めて上海で事業を立ち上げる。バカだと思ったら離婚してもいいよ」と唐突に打ち明けた。逆玉婚なんてこんなものだ。愛がないのだから壊れるときはいとも簡単にパリンと割れてしまう。

すると妻は私にこんなことを言った
「ありがとう、話してくれて幸せです。これからがスタートだね、二人にとっても…」
妻の言葉からは、慈愛の心にも似た愛情が感じ取れ、多分、この時だろう。妻を一人の女性として愛し始めたのは。逆玉婚…私は妻を愛してはいなかったが、妻は私を愛していたのだろうか?

――上海で事業を立ち上げるとしても、上海で知り合った友人や日系企業の方達や役人とのコネクションが唯一の頼みのツテであった。中国の好景気や経済発展の追い風に乗り、私が立ち上げた会社は急激な成長をとげた。当然、退職した会社からは大きな圧力がかかったが、それは想定済みだった。

今まで何人も夢と希望を抱いて独立した人たちから学んだことだが、会社を去り、なお会社の利益にありつける事は皆無! それがルールなのだ。だから、違うルートで仕事を探した。前の会社にも頼らず、義父にも頼らず。

「この世の中に同じノウハウを持った会社はふたつと必要ない。我々だけが保有していれば、それでいいのだ」
私はそんな陳腐な教育を受けながらサラリーマン生活を送ってきた。しかし、その言葉を逆手にとって考えてみると、組織というものは、こんな事を私に教えてくれていた様な気がする。
「進化と共存出来ない種はいつかの日か絶える」

それは、何も経営理念だけではなくて、妻への愛や、それ以外の人たちへの愛し方にも言えるはずだ。

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